借り暮らしのアラフィフティ- 海外シェアハウス暮らし ‐

天涯孤独のアラフィフおひとりさま。家も金も男も定職もないから断捨離しまくり人生リセット、日本での生活も捨てて身軽で自由にシェアハウス暮らし。ミニマルライフ&ライフハックについて書いていきます!

四半世紀ぶりの再訪

今回に限っては一人称を「僕」にして小説風に書いてみます(・∀・)

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退職した友人に、転職活動について聞くため会った後、僕はその辺をぷらついていた。
そして地図を見ていると、ある事に気が付いた。

「ここは・・・」

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僕は四半世紀以上前の学生時代、とある店でバイトをしていた。
カウンターと、テーブルが3つだけの小さな店で、普段は2人で切り盛りしていたのだが
人手が足りなくなったということで、一人だけアルバイトを雇ったのが僕だった。

治安が少々悪い地域で安い店が多い中にあるその店は、単価が少し高めだった分 客層がよかった。
店の人も非常に気立てがよく、常に笑顔で
「ええか、常連客に頼っとっちゃいかんのんじゃ。新規の客も呼ばないかんのんじゃ」
「少し手が空いたらお客さんに軽く話して関係を築くのも大事じゃ」
「お皿一枚で完結するビジネスというのが面白うての。社長に惚れ込んで働いとるんじゃ」

と、自分の理念や哲学を僕に教え、かわいがってくれた。
常連客とも仲良く話せ 楽しくバイトさせてもらえた。

 

店は、新聞にも載り、人気になり、2号店、そして3号店を出したのだが
この3号店というのが当たった。
3号店は球場の近くに出したものだから、試合のある日には客が大入りで、しかも試合の後のファンというのはものすごく飲み食いするのだった。

3号店の売り上げがものすごくなる中、うちの店長は栄転という形で、3号店に移っていった。
もう一人の店員も、地元の岡山に帰り、独立して自分の店を始めたらしかった。

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そこから一度、3号店に行ってみよう行ってみようと思いつつ、もう25年以上・・・四半世紀以上の時が流れていた。
そしてふと気が付くと、僕は今、ちょっと足を延ばせばその3号店に行ける距離にいるのだった。


「行ってみるか」


今行かなければ、またいつになるかわからない。
実際、数年前に1号店を訪れてみたら、その数か月前に閉店してしまっていたとのことだった。
少し遅れたせいで、もう永久に行くことはできなくなってしまった。
その分、3号店には、今のうちに行ってみたい気持ちに強くかられた。


その日も試合があるようで、ちょうど球場に急ぐ人たちと同じ時間帯に足を運んでしまい
コンビニを軽く覗くと食べ物は空っぽ、飲み物もすっかりない状態。
そしてスマホのアプリを頼りに3号店に行ってみると、
その場所で 店のロゴのついた服を着たバイトらしき女学生が、店の外で焼きそばを売っていた。

飛ぶように売れている焼きそば。

「うちは居酒屋ではない」と、こういうメニューを出さないこだわりを持っていたが、売り上げという背に腹は代えられないか。
コンビニの食べ物がないなら、こうやって焼きそばや焼きおにぎりを出したら出すだけ売れるだろう。


そしてバイトらしき女学生の後ろに、懐かしい本店と同じ意匠の3号店を見つけたが、そこには「準備中」の札がかかっていた。


グルメサイトによると、もう空いている時間ではあるが・・・試合があるから遅らせているのかな。
そう思い、人ごみの中球場近くまで散歩して時間をつぶして戻ってきたが、札は出たままだ。


店を軽く覗くと、僕の知る店長ではない人が働いているようだ。
まだ開店しないようなら、仕方がないからもう帰ろうと思い、念のため「いつから開店ですか」と聞いてみた。


50代半ばと思われる、疲れた顔をした男性は、困ったように「いや、いいんですがね」と言い、カウンターに置いている食材を片付け始めた。
見ると、中には数人、すでに客がいるようだった。

準備中の札をかけっぱなしにしているのか・・・と、やる気のなさに少々ガッカリしながら
もう2度と来ることはないだろうから と思い、僕は中に入る。

椅子やカウンター、ロゴマーク。25年以上前と同じだ。
皿が出てくる。皿も同じだ。そして出てくる突き出しも昔と変わらない。

メニューは・・・だいぶ変わった。僕がよく巻いていた海苔巻きもメニューから消えている。


あまりお腹のすいていなかった僕は、一番安いコースを注文した。

店長はとても疲れた様子で、やる気は感じられない。客と目を合わせようとすることはなく、できるだけ客と距離を置きたい様子がうかがえる。
もう一人いる女性も笑顔はなく、僕が呼んでも、口をあけながら僕の頭上にあるテレビで試合を見ていて、目線の真下にいる僕が振る手に気づかない。
店長の「お客さんの注文とって」という声には「伝票!」と、店長に伝票を要求していた。

僕がいた当時の本店は、活気のある店で、笑い声と掛け声が飛び、客ともいい関係が築けていたのだが。


人気のある店で、3号店まで出したのに。

人気があるからと支店を出すと、僕が知る限り、たいていの店は3号店くらいで大きな壁にぶち当たるようだ。
人の管理が難しく、やり方が衝突して、辞めたり独立したり・・・
そこで躓いた店は「もう疲れた。店を広げることは考えず、自分一人でやりたい」と思うようになるようで
僕がバイトしていた店も、きっとそうなのだろう。
頑張ることはやめ、本店を閉店し、2号店と3号店で細々と続けている。もう事業を展開しようとはしていない。


3号店で出された食べ物も、少々しょっぱかった。地域性なのか。
そして目の前で、冷凍した食材を解凍して調理しているのが見えた。
回転は悪くなさそうだから、冷凍せず当日か前日に仕込んだものを焼けばいいと思うし、そうしていたのだが・・・
数日前に仕込むようなものではないと思うのだが、衛生上の問題などで冷凍するようにしたのだろうか。

捕まえるのは難しかったが、スキを見つけて店長に話しかけてみた。
「大将は、この店で何年になりますか」

大将は怪訝な顔をして「この店は26年になります」
僕は同じ質問をもう一度聞く。「大将はこの店で何年になりますか」
大将は「11年です」


逃げてしまった。会話はしたくないようだ。


黙々と、離れたところで下を向いて作業をする店長だったが、近くに来た時にまた捕まえてみた。


僕「店長の、前の店長はどうしたの」
店長「え?ああ、別の支店に行ったな」
僕「大阪の」
店「よう知ってるね」
僕「本店は、何年か前に潰れてたもんね」
店「(苦笑)よう知ってるね」


離れていった。
こちらが少し事情を知っていることを匂わせたつもりだったのだが、店長はまったく会話したくないようだ。
少しは話に乗るかと思ったのだが。
僕のやり方がよくなかったのかもしれないが、この店にはこの店のスタイルがあるのかもしれない。
ここの客は、店側の人間に踏み込んでもらいたがらないのかもしれない。


しかしせっかく来たので、最後にもう一度、会計の時に聞いてみた。
僕「前の店長は、〇〇さん?」
店「いや、××さんや」
僕「その前の店長は?」
店「その前の店長は・・・誰やったかな。古い話やね」
僕「アハハ、そうやね。社長は?まだいる?」
店「⛰さんは、まだおるよ」
僕「じゃあ社長に聞けばわかるね」


会話が連続しているようにみえるが、実際には一回一回、会話を終わらされている。
常に仏頂面で、こちらを見ることなく、しぶしぶ答えている感じ・・・というより、どうでもいいし、踏み込んでもらいたくない感じで
僕も会話をあきらめた。


食べたものの割には高い会計をすませ、びしょ濡れの手から釣りを受け取り、最後まで笑顔をもらえず、残念な気持ちで店を出た。

食ビジネスは、立地によるものが本当に大きいんだね。
味や愛想などの努力は2の次なんだね。


そして
25年以上たっても、店の外見などは全く変わっていなかったけれども
25年以上たつと、ほかのものは一切すっかり変わっていて

僕は、いったい、何を期待したんだろう。


ただ、「僕は元気だよ」と、一言、昔の店長に伝えたかった。


ようやく、楽しかった思い出として向き合えるようになったし
「今は幸せだ、元気だ」と、軽い少しの嘘をついて、平気で幸せなふりをすることもできるようになったのだが。

ただの自己満足か。
昔の楽しかった思い出を懐かしもうとした、単なる年寄りと同じか。


アラフィフにもなると
若いころのいったん消えた人間関係が
長い年月をかけて浮上して、そして永遠に消えていく。